相続のカタチ

成年後見ってどんな制度?相続手続きとの関係は?

成年後見制度とは

「成年後見」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、実際の制度について知る機会はなかなかないかもしれません。
それでは「成年後見制度」とは、具体的にどのようなものでしょうか?

 

裁判所のホームページではこのように紹介されています。

「成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分でない方(ここでは「本人」といいます)について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。」

 

具体的には、認知症などで判断能力が不十分になると、自分が必要としている契約であっても、その契約を結ぶ際に詳細な内容を理解することが難しくなり、不利な内容や、場合によっては悪徳商法にあたるようなものであっても適切な判断ができず、契約を結んでしまい騙されてしまうということが起こり得ます。

また、本人にとって必要な介護サービスの申し込みや契約ができずをそれらを受けられないことで、生活や健康にまで悪い影響を及ぼすことも考えられます。

このようなことを防ぐために本人に代わって財産管理や身上監護を行う援助者を立てて本人の権利を守ることを目的とした制度です。

成年後見制度の種類

成年後見制度は、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の二つの類型があります。

「法定後見」というのは、実際に判断能力が十分とはいえない状態になった時に、家庭裁判所に申立てることによって後見人等を選んでもらう制度です。

「法定後見」には判断能力の程度により、後見、保佐、補助の三類型があります。
判断の基準として、後見は、「判断能力が欠けている」、保佐の対象は「判断能力が著しく不十分」、補助の対象は「判断能力が不十分」とされています。
また、それぞれに対応して裁判所が選任する援助者のことを、「後見人」、「保佐人」、「補助人」と言います。

一方、「任意後見」は、十分な判断能力があるうちに、自分の判断能力が低下した時に備えてあらかじめ自身で支援者となる「任意後見人」を決めておき、具体的にどのようなことを委任するかなどを「契約」をしておくものです。
この任意後見契約は任意の契約書を作成するだけでは足らず、公証役場で任意後見契約公正証書を作る必要があります。

また公正証書の作成後その内容は登記がされますが、任意後見契約は本人の判断能力が低下したときに、本人やその親族、任意後見受任者からの請求によって家庭裁判所が「任意後見監督人」の選任をした時から発効します。

法定後見と相続の関係

ところで、本人に判断能力の低下がみられるなどの場合に、法定後見制度を利用するきっかけになるのはどのような場合でしょうか?

最高裁判所が出している「成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―」によると令和4年1月から12月に全国の家庭裁判所に後見等の申立てがされ、何らかの結論が出された事件数は39,503件となっています。

そのうち、後見等の申立ての動機で一番多いものは「預貯金等の管理・解約」であり、36,279件(31.6%)の申立てで動機として挙げられています。

「相続手続き」のために後見制度の申立てに至ったという動機は、預貯金解約、身上保護、介護保険契約、不動産の処分に続き、第5位で、9,699件(8.5%)として挙げられています。

ただ、動機の割合について申立ての動機が複数ある場合、たとえば「不動産の処分」と「相続」という動機が含まれていても、「申立て件数」としては1件であるにもかかわらず、動機の集計的には「不動産1件」、「相続1件」と数えており、不動産50%、相続50%となる数え方です。

その点から見れば、動機の結果として申立て全体39,503件のうち9,699件で何かしらの相続手続きが含まれることが読み取ることができ、全体に占める割合は約24.5%となります。

相続が発生し、相続人全員で遺産分割協議をする必要がある場合、相続人のうちに判断能力が不十分、あるいは欠くような方がある場合は、そのままでは遺産分割協議を行うことがでません。発生した相続に関与することがきっかけとなり、成年後見などの申立てをする必要に直面するのです。

後見制度と相続に関する手続きとは別のものと感じますが、実は相続手続きを進めていく中で、制度を利用しなければならないことがあるということです。

法定後見制度の手続きの流れ

法定後見制度は、前述のとおり家庭裁判所に後見人等の選任の申立てをし、それの必要性が認められ、選任された後見人が就任するという流れになります。

申立ての際には、申立書のほか、親族関係図や財産目録、また医師作成の診断書(成年後見制度用の書式があります)、ケアマネージャーなど支援者の方からの本人情報シートや申立ての事情を説明した説明書等を提出する必要があります。

申立ての書式は家庭裁判所のホームページからダウンロードすることが可能ですが、実際に申立てまで行う場合には申立書の記載だけでなく、書類の収集や本人の財産状況の把握など意外に時間のかかるものでもあります。

手続きについて相談したいときは

前述の「成年後見関係事件の概況」によると、令和4年に成年後見人等が選任された案件は全部で39,564件です。
そのうち後見人等として親族以外の第三者後見人等選任されたのは32,004件ですが、その内訳は司法書士が11,764件で最も多く、次いで弁護士が8,682件となっています。

現在のところ、相続手続きをきっかけとして後見制度を利用した場合でも、相続手続きが終わったとしても後見開始の審判は取り消されるものではありません。

後見制度を利用したいけれど制度の仕組みがよく分からない場合や、家庭裁判所での手続きに不安を感じる場合には、介護サービスなどで頼れるケースワーカーやケアマネージャーにご相談することはもちろんですが、司法書士や弁護士の法律専門職も交えて一度相談してみてはいかがでしょうか?

相続に関してのご相談窓口