相続のカタチ

投稿日:2024/01/05

何が違うの?お墓の相続

預貯金や不動産といった一般的な財産とは少し違う「祭祀財産」。
今回は「祭祀財産の相続」について、祭祀財産の象徴でもあるお墓を中心にどのように引き継がれるのかをご紹介します。

祭祀財産についてどのようなルールがあるのか?

「祭祀に関する財産」の相続については、民法の第897条に規定があります。

条文の中にある「前条」とは、相続の一般的な効果を定めた第896条のことです。
「前条」を「相続の効果の規定」とあてはめてみると「前条の規定にかかわらず」は「相続の効果の規定に関係なく」と読めます。

また、条文中に出てくるそのほかの用語について簡単に補足をすると、

『系譜』 家系図や血縁関係を記録したもの。
『祭具』 祭祀や礼拝のときに使用する道具。仏壇や神棚、祭壇なども含む。
『墳墓』 遺骨や遺体などを埋葬する設備や場所のことでいわゆるお墓のこと。
     墓石、墓碑だけではなく、墓地の所有権や墓地使用権も含むと考えられる。

 

以上から、第897条第1項には、原則「家系図、祭祀に必要な道具やお墓の所有権については、一般的な相続の効果によって承継するものではなく、慣習に従って祖先の祭祀をとり行う人が承継する」と規定されており、いわゆる遺産相続の民法の規定を適用するのではなく、慣習に従うとされています。

また、同項ただし書きにより、被相続人の指定があればその指定が慣習に優先するとされることが読み取れます。
なお、この被相続人がする指定の方法は、明確に定めた規定がないため、書面でも口頭によるものでも構わないと考えられていますが、以後の手続きや内容をしっかり伝えることを考えるのであれば遺言書などによる方が無難ではないでしょうか。
また、祭祀を承継する人の資格については血縁関係の有無は問わないとも考えられています。

そして、同条第2項で、被相続人による指定がなく、また特に承継方法を定める慣習もない場合には最終的には家庭裁判所が定めるという規定がおかれています。

 

このように、「祭祀財産」は家督相続という考え方のあった旧民法時には「家督相続人に属する財産」(旧民法第987条)とされており、結果としていわゆる「家」を継ぐことになった人が承継していました。
ところが、民法が改正された現在にあっては一般の相続財産と異なる位置づけであり、独自の承継方法が規定されている財産になったのです。

「一般財産の承継」と「祭祀財産の承継」は別で考えることが必要

祭祀財産は通常の遺産分割の対象となるものではありません。
また、被相続人の相続について放棄をしたからといっても、「祭祀の承継」まで放棄をする効果はありませんので、祭祀(に関する財産)だけは承継するけれども、相続財産を承継せず相続放棄をすることも可能です。

しかし「祭祀財産」については、これを個別に放棄する方法や、被相続人からの承継者としての指定を拒絶する方法など、それらの規定や具体的な手続きについて法律で明記されていないのが現状です。

「祭祀財産の承継者」となった時には、被相続人の所有する土地のうち「墓地」「墳墓地」として利用していた土地には「相続」や「民法897条による承継」などを原因とする所有権移転の登記をしなければなりません。
また、共同墓地や霊園など「墓地の利用権」を持っている場合には、管理者などにその旨を伝えて利用権者の変更手続きなどを忘れてはなりません。
菩提寺にあるお墓などの場合には、菩提寺での手続きやその際に払う費用が必要なこともあります。

分割の時だけではなく、名義変更の際にも何を行うかはそれぞれ異なります。
なお、相続税の計算の際においては、墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝に使用している物は、一般的に相続税の課税対象の財産とならないとされています。

まとめ

祭祀の承継に関することは、通常の相続財産と別の考え方によるとされているものの、実際には明確な合意や取り決めをせずに「長男・長女だから」「お墓に近いから」「実家を相続したから」などの理由で事実上の「祭祀の承継」がされていることが多いのではないでしょうか?

昨今、住み続けた地域から移ったために遠方のご実家の土地建物を処分するのにあわせ、先祖代々の古いお墓のお引越しや墓じまいをすることなども多く聞かれるようになりましたが、誰が祭祀を承継しているのかが分からずお墓を動かす際に大慌てすることになってはいけません。

相続に備えて預金や保険、不動産など資産の承継の手続きばかりではなく、「どこにお墓があるのか」、「誰のお墓なのか」、「誰が管理しているのか」など、来るべき「祭祀(財産)の承継」についてもご家族でしっかりと話し合っておくことが重要です。

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