所有者不明土地管理制度ってどんな制度?
はじめに
所有者不明土地管理制度は、令和5年4月1日から新しく始まった制度です。
この制度は、いま社会問題になっている所有者不明土地問題の解消に大きな役割を果たすことが期待されています。
これまでは、行方が分からなくなった人の財産管理については「不在者財産管理制度(民法25条)」を、亡くなったあと相続人の存在が判明しない人の財産については「相続財産清算人制度(民法952条)」を利用して財産管理や清算を行ってきました。
「不在者財産管理制度」や「相続財産清算人制度」は、対象となった人の財産全部を管理する制度であるため、管理対象財産の幅が広いものとなり裁判所から選任された管理人(清算人)の負担が重くなっていました。
そこで、対象となった人の財産全部を管理するこれまでの制度だけではなく、例えば「放置されて草木が伸び放題の隣地」など特定の所有者不明土地(例=〇〇市〇〇区〇丁目1番の土地)のみを財産管理の対象として問題の解決を図るため、所有者不明土地管理制度が始まりました。
所有者不明土地管理人の選任
所有者不明土地管理人の選任については、民法第264条の2第1項において次のとおり定められています。
上記の条文を整理すると管理人選任の要件は次のとおりになります。
① 所有者不明の土地であること
② 利害関係人が裁判所に対して申し立てをしたこと
③ 裁判所が必要であると認めたこと
上記①②③の要件の中でも特徴的なのが③ではないでしょうか?
所有者不明土地管理命令を発令するには、裁判所が「必要であると認める」ことが必要となっています。
例えば、土地の所有者が行方不明でも、第三者(例えば土地の賃借人等)が適切に土地を管理している場合などは、所有者不明土地管理人の管理の必要はないと考えられることもありえます。
所有者不明土地管理人の権限
それでは所有者不明土地管理人はどのような権限で何を行うのでしょうか。
1 専属性
所有者不明土地管理人が選任された場合、管理の対象となっている土地の管理処分権は、所有者不明土地管理人に「専属」することとされました(民法264条の3第1項)。
本来の所有者がいても管理人が選任された土地については、管理や処分を行う権限は管理人が行使します。
このため、仮に①管理人による土地の売却と②本来の所有者(行方不明になっているとされた人)による土地の売却が同時に行われた場合には、①の管理人による土地の売却が優先することになります。
そのため、管理人や管理人から不動産を買い受ける人は、安心して売買等の取引行為を行うことができるのです。
2 管理範囲と権限
管理人の権限は、管理対象となった土地とその土地の上に存在する動産(ただし、土地の所有者が所有するものに限ります。)に及びます。
また、所有者不明土地管理人は、次に掲げる行為をすることができます。
① 保存行為
② 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用または改良を目的とする行為
これに対して、上記①②以外の範囲を超える行為をする場合には、裁判所の許可を得なければならないとされています。
例えば、先に例として挙げた不動産の売却、不動産に関しての訴えの提起、債務の弁済などは、裁判所の許可を得なければ行えません。
3 遺産分割について
また、注意しなければならないのは、所有者不明土地管理人は遺産分割協議の当事者となることができないということです。
例えば、土地の所有者が死亡し、相続人ABCの3名が土地の共同相続人とした事例で、相続人Cの所在が分からない場合を考えてみましょう。
この場合、Cの持分3分の1について所有者不明土地管理人が選任される場合がありますが、選任された所有者不明土地管理人が他の相続人ABと遺産分割協議を行うことはできないということになっています。
これは、所有者不明土地管理人の権限が相続人の地位に由来するものではないためと考えられます。
一方、この事例で相続人中のCが行方不明であるとして「不在者財産管理制度」を利用した場合には、裁判所の許可を得ることで遺産分割協議を行うことができるとされています。
さいごに
所有者不明土地の中には、所有者やその相続人がどこにいるのかが分からない土地だけでなく、所有者捜索の手がかりが全くなく、そもそも誰が所有者であるのか分からない土地も存在します。
このように所有者をまったく特定することができない場合には、「不在者財産管理制度」や「相続財産清算人制度」を利用することができないという問題がありました。
所有者不明土地管理制度を活用することで、これまで土地の管理が必要な状態となっているにもかかわらず、管理をする方法がなかった土地についても法律上適切な管理を実現することができるようになると考えられます。
身の回りや地域にある「所有者の行方が分からない土地」について管理を行っていく場合には、いくつかある管理人制度を比較しながら、どの制度を利用するべきなのか専門家に相談するなどして検討することが重要です。